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『私、健吾(けんご)のことが好き。ずっとずっと好きだったんだから……!』
幼なじみの麻紀(まき)が顔を真っ赤にして、一〇年間胸に秘めていた思いを伝えてくる。
『私をこんなに弱い女の子にして──、責任とりなさいよっ』
いつもは小生意気な彼女も、この瞬間だけはありったけの勇気を振り絞ったのだろう。唇と肩が震えて今にも泣き出してしまいそうだ。
──俺は何と答えれば、
『俺もだよ、麻紀』
『ごめん。他に好きな人が』
「ここで断るバカがあるか!」
→『俺もだよ、麻紀』
『ごめん。他に好きな人が』
コントローラーの決定ボタンを押そうとしたその瞬間、
「ケンー、ちょっといい?」
亜麻色のショートヘヤーをふわり靡かせながら、妹の明美がノックもなく部屋のドアを開けて入ってきた。
「コラっ、俺のことはお兄ちゃんと呼びなさいと何度言ったら分かるんだ!」
「何でそっち。勝手に中に入って来てる方を突っ込むでしょフツー」
明美は据え置きゲーム機の繋がれたテレビのモニターを見やる。クリッとしたその瞳に嫌悪を表す光が浮かぶ。
「うっわ、またギャルゲーの主人公に自分の名前つけてる。イタいしキモい」
「うるさい帰れっ」
「英語の辞書借りたらすぐ出てくからさ。いやー私の携帯についてる辞書、凄く頭弱くて困ったよぉ」
そうか。お前と一緒だな。
ぐごしゃっ。
「いだぁぁ!」
和英辞書で後頭部を強打された。
「お、おかしいな、口に出してた?」
「いんや、何かバカにされてる気配を感じたから」
「一年戦争に参加することを強くお薦めする」
「意味分かんないし」
「考えるな感じるんだ」
「はいはい。はぁ、大学生は気楽でいいねぇ」
聞き捨てならない捨て台詞を吐いて部屋を後にする明美。ツンデレにも程遠い。全く萌え要素の欠片もない妹だな、と本人に聴こえないように返しておく。
相原健吾(あいはらけんご)。
一九歳になる大学二年生の若者である。趣味はパソコンとゲーム、アニメにフィギュア。健吾という存在を表現するのに最適な、オから始まりタを挟んでクで終わる三文字の素敵なキーワードが存在するが、ここは彼の人権を尊重して「機械に強い超インドア派」と紹介しておく。
家族構成は両親と妹との四人暮らしという比較的ポピュラーなもので、特に金持ちでもなければ貧乏でもないという大変面白味に欠ける家庭である。
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