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しかし健吾の恋愛遍歴は輝かしい武勇伝で讃えられている。
活発で元気なツインテールの後輩に、穏やかで優しい眼鏡の先輩、料理上手で甘えん坊な血の繋がらない妹と、猫目で世間知らずなお嬢様、果ては現在人気急上昇中の国民的アイドルにと──まさに女を取っ替え引っ替えにし、つい今しがたも長年好意を寄せられていたツンデレで美少女の幼なじみから自宅の前に呼び出されて愛の告白を受けたばかりである。
『ホントに? 嬉しい。……あ、べ、別に、あんたの為に一緒にいてあげる訳じゃなんだからねっ』
「フフ、さっきと言ってることが逆だろ? 今更照れるなよ、これからはずっと一緒なんだからさ」
鼻の下を伸ばしながら健吾はそう言った。
◇
翌日の午前十一時、眠い目を擦りながら大学の門をくぐる。今日の講義は卒業単位を取得するのに必須の科目である。
人格はともかく頭の出来はそれ程悪くなかった健吾は、特に苦労を払うことなく進学に成功。二流の大学ではあるが、別に上流企業に就職して人類ヒエラルキーを駆け登ろうという気概があるわけでもないので、それなりのゆとりを利かせたキャンパスライフを謳歌している。
講堂へ向かう途中、渡り廊下で自分とは別の学部らしき数人の小洒落た女の子達が通路に屯って談笑をしている光景に出くわした。
健吾が籍を置く理工学部の学生は、男性がその大半を占めており、講義中に香水の香りを嗅ぐ機会はほとんどない。心拍数が上がって発汗作用を促進する。女の子達の脇を通り抜けようとしたその瞬間だ。
「ちょっと何あれ」
「うわ、酷いファッション。センスゼロ」
「絶対根暗だよね。想像するだけで気持ち悪い」
流し目で何度周りを確認しても、自分の他に渡り廊下を歩いている人影は存在しない。
「ていうか、あの存在自体が有り得ないから」
「私あんなのと同じキャンパスの学生だなんて思われたくなーい」
「あははっ。それ言えてるー」
迫害意識を隠そうともせず軽蔑心を剥き出しにした嘲笑をその背中に浴びながら、目頭が熱を帯びていることに気づかないふりをして健吾は通路を抜けた──。
人類は異星人と敵対している。
地球の侵略を狙うエイリアンは、高度な文明兵器を駆使して世界に攻撃を開始した。
「世に広く知られている半導体の特性。まずはその詳細についてだが」
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