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端的に言えば、ミイラ男の正体は俺だ。
別に俺だって、好き好んで全身に包帯を巻いてるわけじゃない。
ただ、体中に大怪我をしているわけでもなかった。
全身に巻いた包帯の使い道、それがこれである。
「待ちやがれってんだよ!!」
俺は前方を飛んでいく男に罵声を浴びせると、ジャケットの袖から一直線に包帯を伸ばした。
目的は空飛ぶ男――ではなく、その先のビルの屋上の手すりに包帯を巻き付けること。
俺は夜の街を、スパイダーマンさながら包帯一本で渡り歩いていたわけである。
「く、来るなぁ!」
空飛ぶ男は情けない声をあげながら、ずっと追いすがる俺を振り返って確認していた。
直立不動で空を飛ぶその謎の姿はマヌケとしか言いようがなかったが、それでも厄介なものは厄介である。
俺は機転を利かせ、次のビルへと先回りしたってワケだ。
それにしても、宵闇をターザンのように切り裂いていくのは心地いい。
冷たい夜風が頬を撫で、俺がさっさと任務を達成しようと気持ちを新たにした時だった。
どこからともなく飛んでくるナイフ。
それは、鮮やかに俺とビルの手すりを繋ぐ包帯を切り裂いていった。
「あ」
完璧に油断していた俺は、そのまま地面へまっさかまである。
あれ、これって、もしかして一巻の終わりってやつだろうか。
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