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徐々に音のする方へ近づいて行くと、音は泣き声だとわかる。
「なんだ?」
闇の中、そこだけ光っていた。
さらに近づいて行くと、かわいらしい赤ちゃんが泣いたり笑ったりを繰り返している。
「なんぢゃお前は?!」
「びええええぇぇぇぇんっ」
魔王の言い方がよほど怖かったのか、赤ちゃんは響き渡る声で泣き叫ぶ。
「これ! やめぬか。お前…天子か?」
「きゃはぁい」
今度は楽しそうに笑う。
「まいったのぅ…こんな所に迷いこんで…」
魔王は頭を抱えた。
天使の子が魔王城に迷い込むことなどない。
まして、いずれ敵対するであろう者をこの手で育てるなど…
「ひゃいひゃぃきゃはぁふぅ…」
「……………………」
無邪気に楽しそうな天子を見ていると、漆黒の闇が広がる世界に放り出すのも可哀相に思えてならなかった。
「お前はこのワシに育てられたいのか?」
「きゃはぃひゃぃはふ~ぅぃ」
無邪気に笑うばかりの天子。
それが天子の意思表示なのだと魔王は思った。
こうして魔王の子育て生活は始まった。
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