とある彼女の初めの一歩

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 11月も下旬にもなれば、巷はX'masムード一色。 店頭では狂ったように季節ソングが流れ、ツリーやリースなどが売られている。  おもむろにサンタのぬいぐるみを手に取ってみる。 愛らしいその存在を、架空のモノと知ったのは何歳の頃だったか…。 (麻衣子が良い子にしてたら、サンタさんがプレゼントをくれるんだょ)  両親にそう言われて、普段よりは大人しくしてた頃もあった。 しかし、中流階級の麻衣子の家ではそこまで高価なモノが用意出来るわけもなく、麻衣子が一番欲しいと思った物がプレゼントされることはなかった。  麻衣子も今年で22歳。訳あって定職には就いていないが、アルバイトをして欲しいものがあれば自らで手に入れることができる。 18歳で社会に出てから、居もしない夢の国の魔法使いの様な存在はインテリアの一環と化していた。  しかし、今、その手に持つぬいぐるみに向けられる視線は何か熱いものがある。  いい子にしてたら  私の欲しいものくれますか?  ねぇ?  ふと我に返り、苦笑する。 ぬいぐるみを棚に戻しながら、我ながら馬鹿なことをしていると少し恥ずかしくもなった。  休みもなく働いて、娯楽も全て取っ払って…。 それで手に入れられるモノならば、悦んでそうするだろう。 そう それが目の前のぬいぐるみだったり、ブランド物の服だったり お金で手に入る"物"ならば…。  無意識に左手の指輪に触れている。 そこに有ってはイケナイモノ わかっているのだが 簡単に捨てられるモノなら、川にでも溝にでもとっくに投げ入れてる。 それが出来ないのは、まだ"彼"との記憶を忘れられないから… "彼"の僅かな繋がりを捨てられないから…  背を向けた店内には、やはりX'masソングが流れている。  
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