25人が本棚に入れています
本棚に追加
男は読み終えた手紙をぎゅっと握った。
少年は、そっぽを向いたまま眠っている。ピンク色に染まった頬は、寒さのせいだろう。
この部屋に暖炉はあるが、久しく使われていないものと見受けられる。ぺしゃんこな布団はどす黒く汚れ、まともに布団としての機能を果たしていないと思われた。
男は真っ赤な帽子をかぶり、真っ白な袋を背負い、早々と煙突を登った。
外に出ると、銀色の月が沈みかけていた。
時間がない。
「カイちゃん、行くぞ」
異形の浮遊物体――全長四メートルはあろう美しき金色の毛に覆われたトナカイは、より激しく宙を蹴った。
男がトナカイに繋がれたソリに乗り込んだ。
「また最初からやり直しだ。世界中のサンタクロースたちに、全てのプレゼントを全ての子どもたちに渡すように伝えておくれ」
男は帽子を深く被り、濡れた目を必死で拭った。
それでも涙は止どまらず、胸の中が熱くなるのを抑え切れなかった。
「さあ、急げ!」
トナカイは一度大きく雄叫びをあげ、駆け出した。
それは肉眼では捉え切れないほどの速さで、ちかちかと煌めく星空に消えた。
しゃん、
しゃん、
しゃん――…。
最初のコメントを投稿しよう!