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彼女はいつものようにココアを飲んでいた。
お気に入りのマグカップに茶色の粉を入れ、温めたミルクを上から注ぐ。
軽くスプーンで混ぜると、白と茶色が渦を描いてくるくる回る。
白と茶色が混ざり合い柔らかな色になったら、両手をカップで温める。
それから、中身を口に含む。
甘い温かさで体の中から温まる。
ほうっとため息を吐くと、カップを持ったままソファに体を沈めて足を伸ばす。
ゆっくりとした動作で首を横に向けると、部屋に置かれたデジタル時計を見た。
時計は正確な時刻を彼女に伝える。
「十一時半、か……」
彼女はもう一口ココアを口に含む。
さっきよりも少し冷めてしまっていた。
ふいに玄関の開く音がして、男が一人帰って来た。
「おかえりなさい」
彼は彼女を見つめながら、ぽつりと呟く。
「ごめんな」
彼女は首を横に振ると微笑んだ。
「まだ、ぎりぎり今日よ」
彼はコートも脱がずに彼女に近づくと、すまなそうな顔をしてそっと頬を撫でる。
「遅くなってごめん」
彼女は頬に当てられた手に自分の手を重ね、頬を押し当てた。
「手が冷たい」
彼は慌てて手を離そうとしたが、彼女は手を離そうとしない。
「ねえ、ココア、飲まない?」
温まりましょと続けて彼女は彼を見上げる。
彼は少し微笑んで頷いた。
彼女は彼のマグカップにココアを作ると、彼に差し出し、二人で座るには少し狭いソファーに一緒に座る。
二人で肩を寄せ合いココアを飲む。
温かい柔らかな甘さがいつものように二人を包み込んでいた。
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