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 午後の弱い陽が、力なく立ちこめる。眩しい季節は過ぎ去り、憧れだけを残す。高く青いはずの空は、どこか他人顔だ。  闘えると思った。  新チームを引き継いだ。夏の聖地を知るあの人たちが去って、一ヶ月が経った。自分たちも同じように闘えるのだと思っていた。  出遅れる。球が逸れる。溢す。捉えられない。繋がらない。何一つ、満足に動かなかった。数人の三年生がいない。それだけだ。千陽も祐介も、ともに甲子園の土を踏んだ。あの空を、あの空気を、あの熱を知っている。それでも足りない。圧倒的に、足りないのだ。今、スタンドで観客の中に埋もれているあの人たちとは、なにもかもが違い過ぎる。ただそのことだけを思い知る。 「ツーアウト!」  指を高く突き上げ、空で振る。  ツーアウト。三点差。攻撃はあと一回。  ダメかもしれない。  マスクの中で千陽の吐き出した息が溜まっていく。濁り、沈殿する。前が、よく見えない。千陽の視界に、負という文字が点じる。  点を入れれば、入れ返される。イニングを重ねるほど、走者を許してしまう。勢いは相手にあった。流れは、とうに向きを変えていた。それに気づかないわけがない。もうどうしようもない濁流の中にいるのだ。足掻く。抗う。それでもだめだ。足を掬い取られ、絡まり、押し流されていく自分を、これでもかと感じてしまう。  ここで、負ける。  空が高い。青くても、煌めかない。あの夏と同じじゃない。  祐介がまっすぐに立つ。肩越しにサードランナーを見た。左腕の祐介の背中で、ランナーが軽くステップを踏む。祐介の右足が上がった。  どうやって、ミットを構えればいいのだっけ。  ああ、応援団が煩いな。
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