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午前六時。まだ晴れない朝靄の中を、二十騎ほどの騎兵達が駆け抜けていく。
だが、馬上に跨っているのは重鎧を纏った騎士では無い。皆、重要な部分のみを守った軽鎧で身を包んでいる。それは騎士用と言うより、剣士用と言った方がいい装備である。
しかし、この騎兵達は、ただの二十騎で戦局を変える力を持つ。なぜなら彼等は、魔術を行使できる剣士。則ち術剣士(ルーンフェンサー)と呼ばれる者達だからだ。
その術剣士隊を率いるのは、ディオン・アルサイム将軍である。
その黒髪は短く切り揃えられており、瞳の色は髪同様のに黒く、長身でやや細身に見える体躯は無駄なく鍛えあげられている。
その体を黒衣と蒼い軽鎧で武装し、腰には他の者達と同様にバスタードソードが帯剣されていた。
端正な顔立ちをしているのだが、今はふてくされてしまっているので、やる気無さそうな表情に崩れてしまっている。
「で、どこまで攻め込まれてんだ?」
その表情を崩さないまま、ディオンは自分の横を並走する伝令兵に問いた。
その問いに、伝令兵が気まずそうに答える。
「じ…自分が出た時には、第三防空網まで攻め込まれていました。」
「なんでそこまで攻め込まれてんだオイ?」
そう言いつつ、ディオンの表情がますます不機嫌に変わっていく。
何か不穏な空気を感じたのか、伝令兵は弁明を試みた。
「な…なにぶん早朝だったので、朝靄による視界不良と、敵のグリフォンライダーが低空飛行で五カ所同時に襲撃したこともあり、こちら側の対応が遅れてしまったのです。」
そう答えた伝令兵を、そのせいで朝っぱらから出陣するハメになったんだぞと言う視線でじとーっと睨みつけやる。
その恨めしい視線を伝令兵に浴びせたまま、
「敵軍の構成と数は?」
ディオンは不機嫌極まりない声音で、伝令兵に新たな質問をした。
「ぐ…グリフォンライダー五十騎のみです。」
「……それだけか?」
「は…はい。」
ディオンの表情が、ふてくされた物から疑問府に変化した。
沈黙が訪れる。その間、ディオンは顎に手を当て、何やら考えている仕草をとっていた。
数十秒後、考えがまとまったディオンが、伝令兵に指示を出す。
「お前はこのまま、術剣士隊を引き連れてグリフォンライダーの応戦に向かえ!」
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