†第一楽章†

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息を切らせて走った。振り返る余裕はない。捕まれば終わりかもしれない。少年は走った。建物の影に隠れると座り込み盗んだパンにかぶりついた。夢中でたべた。走り疲れて呼吸が乱れているせいで時折むせた。気が付くと隣で猫がうらめしそうに眺めていた。少年は猫を殴りつけ追い返した。これも生きる為。腹が満たされると立ち上がり服を払い移動を始め、街中を横目で次に狙えそうな店や如何にも軟弱そうな婦人や紳士を物色しながら歩いた。それでも食べ物にありつけない時には体を売った。客の中には変態もいて、少年は殴り痛めつけられたり、火傷を負わせられたり、ベルトで打たれたりして体中傷や痣だらけだった。少年は孤児で物心がつく前から物乞いをしていたし、これが当たり前だった。そして人の冷たさや仕打ちに対し今では人殺し以外は何だってやる様になっていた。目の前で死んだ人間からだって物を奪い、それを売り、金に変えたりもした。陰口を叩かれようが、酷い人間だと思うだろうが、これが現実。周りの人間も少年を人間として扱わなかった。まるでゴミを見るような目で見てた。そう…これが現実。
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