第一章 霊の見える少女

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 その先輩が、学校一の美女である草薙に手を出さないはずがなかった。草薙は相手にしていなかったが、ある日俺や天津がいる中で先輩数人を引き連れて、強行な手段に出ようとしたことがあった。周りには、他の生徒もいたがその先輩に反抗出来るやつはその場にいなかった。なにせすぐに手を出してくるわけではなく、柄の悪そうな顔つきをした先輩たちで囲んで威圧感のみで草薙を連れ出そうとした。草薙だけではない。天津まで標的にしようとした。  俺は「人呼びますよ」と言ったが、先輩は眼中にないとばかりに俺を見もせず「呼べばいいじゃねーか。俺はお茶に誘ってるだけだ」と答えた。怒りが込み上げた。いざとなればフルボッコにされる覚悟で、2人を逃がすつもりだった。だが幸運なことに、俺の友人たちが集まってくれ、「風太」と天津や草薙を匿うように先輩たちの前に立ちはだかってくれた。  そんな中、「頭きた」と草薙が低く言った声が俺や友人たちの間をすり抜けた。次の瞬間、中核の先輩が後ろにひっくり返った。そこには踊るように翻り、長い髪を風に纏わせた草薙がいた。気が付いた時には、草薙の長い足の先が高い位置にあり、その足の底が次々と先輩たちの顔面を踏みつけた。  バタバタと倒れる体格の良い先輩たちを見て、何が起きたのかだれもが理解できていなかった。天津だけがただ、にこにことして「流石」と拍手しているのは分かった。  草薙は先輩たちを見下ろして、「ばっかじゃないの。帰ろ」と美月姫の手を引いて、「風太も、みんなも、ほら。馬鹿がうつるよ」と地面に倒れた先輩たちを見ることもなく言いのけ、何事もなかったかのようにその場を離れた。  俺も、俺の友人たちもただ目を点にしてその場に突っ立った。数秒たっても理解が出来なかった。可憐としか言いようのない少女が、誰もが手におえない不良をものの数秒で倒した事実は、まるで崇高な出来事のように映った。
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