第一章 霊の見える少女

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 そんなこんながあり、草薙は普通ではない、格の違う人間なんだと周りの人間は言って自ら同じ土俵に立とうという男たちはいなくなり、ひたすら憧れの存在となった経由がある。  そうなると、落ち着いていて控え目、尚且つ陽だまりがさすのうな明るい笑顔を見せる天津の方が草薙よりも人気をものとした。  それが俺の撃たれたような出会いを感じた2人である。  大切な友人としての掛け替えのない出会いだったことには間違いはないが、ならば俺の運命の出会いというやつは一体何なのだろうか。  「ねえ、風太」隣で、弓を弾きながら草薙が声を掛けてくる。先輩たちはいなかったが、練習中でも弓を弾いてくる最中に声を掛けてくるのは作法上よくないことだった。 「的外した方がジュースおごりね」  草薙が言ったのと、俺が引いた弦を話すのは同じタイミングだった。小手から弦が外れる際、親指の腹に弦が擦れたのを感じ、外した、と瞬時に理解した。俺の矢はぼすっと音を立てて、的の後ろの土壁に突き刺さる。瞬間、草薙がくすくすと笑い弦をはじいた。弦を放した右手が弧を描くようにして背中へまっすぐと伸び、矢を放った弓は少し前に傾く。ぱんっと気持ちのいい音を立てて矢が的を貫いた。  俺は肩を落として、「声かけんなよ」とぼやく。  草薙はすり足で艶やかな床を歩き、端まで行くと礼をして的場から後ろへ引いて行った。小さく「よしっと」つぶやいて、輝かしい笑顔と色めいた目つきで俺を見る。  俺は小さくため息をついて、草薙と同じようにしてその場から退場した。  その笑顔を見て、あるいは、と思う。あるいはこの気持ちが、運命を意味するのではないか、と。
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