呪い

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 湿った匂いのする暗い森の中を1人の少女が駆ける。まだ幼さの残った10代中頃の少女だ。 息は切れ切れで、額からは汗が吹き出し頬を伝っていた。その可憐な顔の表情には険しさを浮かべていた。  空は一面暗い闇に覆われ、頼りになる明かりは何一つない。乱雑に伸びた草や木の根が駆ける少女の足を邪魔した。木の根や岩に生えたコケは湿っていて足を滑らせる。暗闇の中で足元がよく見えず、何度も何度も足をとられ転びながらも懸命に走る。  どのくらい走ったのか、彼女の足の皮はところどころ靴の下でめくりあがっていた。下肢に広がる重苦しい疲労よりも、じわじわと痛む靴づれの痛みに限界を感じる。  その少女の後ろを、松明を持った村人たちが追う。  ぞろぞろと群がる村人たちが持つ松明の光は暖かく美しくも見えたが、村人たちの表情は怒りや憎しみに満ちていて、その光でさえも不気味に思えた。  村人の手には鎌(かま)や鍬(くわ)が握られている。それらの錆びついた刃は松明の火で剣呑な光を放っていた。  少女は逃げることに必死だった。  捕まるわけにはいかない。捕まったら確実に殺されることは分かっている。  あの瞬間、すでに命など諦めていた。けれど今殺されるわけにはいかない。10分だっていい。30分だってかまわない。少しでも長く生きなければ。
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