呪い

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 『どうか、みんな無事で…』美鈴は最後の願いをそっと胸のうちで囁いた。少しでも長く時間を稼ぐことができただろうか。できれば長く、より長く自分より生きてほしい。できるのであれば、せめて最後に大切な人の顔を見たかった。けれど、生き延びてくれればそれでいい。  落ちていく美鈴を見て美しい少女は、顔を青ざめた。反射に近い反応で美鈴に向かって走る。 「美鈴!!」  少女は美鈴を助けようと、崖に向かって手を伸ばした。  そんな少女の姿が見えた美鈴も最後の希望を掛けて手を伸ばす。指と指が触れるぎりぎりでその指と指は絡み合うことはなかった。そしてこれから先永久に絡み合うことがない。少女の目が見ている中、美鈴は闇の中への飲み込まれていった。  美鈴は美しく敬愛する少女が目を見開く表情を闇に飲まれながら垣間見た。  「ごめんね…」美鈴は少女につぶやく。  美鈴の声はすでに少女に届かないところにあった。 「美鈴――――!!」  少女は落ちていく美鈴を見つめ、張り裂けるような声で叫ぶ。  谷底には高い声で叫ぶ、美鈴の断末魔が崖の壁に反響し辺りに響いた。  村人たちは叫び声の響く崖を覗きこんだ。  少女は村人たちを見向きもせず、途方にくれた様にただ崖の中の暗闇を見つめる。 「これで悪魔が死んだ」  村人の1人が静にそう呟く。 「…どうして…どういうことなの?」と少女が小さく言うと、村人は「呪いは全て、あいつの仕業です。あいつがあなたのご両親を…」と答える。 「そんな…そんなわけ…」  村人はそっと少女の肩に手を置いたが、彼女はその手を大きく振り払い、きっと恨めしい目で彼らを睨み付けた。村人たちは静かに彼女を見つめ、彼女をその場から連れ出そうとうかがっていたが、やがてはあきらめた。踵を返し、ぞろぞろと崖を離れて行った。  少女だけが1人ぽつんと崖の淵に残った。
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