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少女は肩を震わせ、涙を頬につたわせた。村人がいなくなって、松明の光も遠ざかっていく。ひどく冷たい風が彼女の髪を揺らした。
暗い闇の淵から立ち上がることが出来なかった。目の前にいたはずであったのに、もう少しで手が届いたはずなのに美鈴を救うことができなかった。無力感と罪悪感、そして強い悲しみが少女の強い心を砕いてしまいそうだった。失った。大切なものを次々と。
そこからどのくらいの時間が過ぎただろうか。少女には時間の経過さえも感覚がなくなっていた。
森からがさがさという音が聞こえ、その震える少女の元へ息を切らした1人の少年が近付いてきた。
顔立ちが整っていて、銀色の珍しい髪の色をしている少年だった。暗闇の中だというのに、少年の髪の色だけはきらきらと輝いているように思えた。
「み…美鈴は…?」
少女は俯いてしゃくりあげたまま、震える手で崖に向かって指差した。
嫌な予感が少年の頭の中を駆け巡る。不安が破裂したように胸の中の痛みが少年を襲う。
「まさか………!!」少年は崖の底を覗き込んだ。底は暗闇で、何1つ物が見えない。ここから落ちたら、ひとたまりもないだろう。そう思わせる高さと闇。
少年が知らずのうちに蹴っていた小石が、カランカランと崖の中に落ちていく音が響いた。底に落ちる音は聞こえてこない。底など存在しない闇が飲み込んだようだった。
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