依頼人は同級生 『後編』

2/24
前へ
/265ページ
次へ
とにもかくにも事情を聞かなければ、始まらない。 クリスの家を借り、マネージャーと恭子から用件を伺った。 恭子の所属するグローバルレコード社は近年急速に成長したレコード会社で、無数のアーティストを抱えているらしい。 その中でも若手シンガーソングライターとしてドラマや映画の主題歌を作詞、作曲、ボーカルと、波に乗った売れっ子なのが彼女だそうだ。 彼女自身はあまり表立ってテレビへ出ることもなく、主に作曲した曲を貴社のアーティストに提供するという立場だったのが、最近になって曲作りの才能だけでなく声にも評価が付いたようだ。 神からの恵みとでもいうのか、恭子には絶対音感なる第六感が備わっているらしく、物音がドレミの音階になって脳に伝わる能力があった。そのため小さい頃からウイーンの音楽学校でピアノを、その才能ある指先も名だたる音楽家から師事をうけているそうだ。 しかし、驚くのは彼女が浩司と同じ歳、同じ学園に通っていることだ。 十五の時、音大を卒業し、またもや学び屋に逆戻りしたかった気持ちがよく解らないが、一年生として今年の春から春日生徒の仲間入りを果たしていたという。 だが、多忙な仕事との両立が上手く行かず、入学式後は一度も門をくぐっていないようであった。
/265ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3542人が本棚に入れています
本棚に追加