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「……ドアいじってて誰にもバレなかったの?」
「いえそれが、不覚にもお隣さんに……」
クリスが、心底無念そうにネギを切りおとす。
切れ味がやや衰える。
「で…どうしたの?まさか……け、消したんじゃ…」
「そのような事はいたしません。このアパートの方とはもうご挨拶が済んでおりますし、ドアノブのメーカーを教えて戴くなど、ご協力しても下さいました」
「挨拶?いつの間にそんな……?」
お玉で鍋の中身を掻き混ぜながら、クリスは言った。
「昨日のうちに回らせていただきました。浩司様お住まいのアパートの方々ですから、粗相のないよう事前に私もご挨拶しておこうと思いまして。皆さん、とても親切でいい方達でしたよ」
「……皆さんって、全室回ったの?」
「はい」
「クリス一人で?」
「はい。粗品も添えて」
「………その格好で?」
「もちろんです。皆さん一様に驚いた顔をされておりましたが」
浩司は突っ伏すどころかズッコケてしまいそうであった。
彼女の現在着用している衣服はというと、紺色を基調としたドレスであり、真っ白なエプロンがひらひらっと着いたとても清楚なものであった。
ロングのスカートは下にふわっと広がって、肩にゆとりを持たせた造りが特徴的。胸元には大きめのリボンタイが結んである。
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