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何かを言いたそうに、もじもじと右手の人差し指と左手の人差し指を、交差させたり、突っつきあったりとする眼前の少女。
明らかに落ち着きのない……というより、恥ずかしがっているという事が良くわかる。それでも頑張って、自分を奮い立たせて言葉を出そうとしている。
―――しかし、少女の口から紡ぎ出されるのは「あ、う、あの……」と、言う躊躇いがちな言葉だけ。
真に言いたい筈だろう続きが出て来ない。……で、俺にこの少女は何を言いたいのか。
というか、誰?
俺には、この年頃の知り合いなんていない筈だ。しいて言うなら妹とその友人何名か。しかし妹はもちろん、その友人とも違う。
……わからん。
こうなったら、直接本人に聞くしかないか―――。
と、俺がそれを聞くべく口を開いた時―――
「さ、さっきはありがとうございました!」
少女が、言葉を放った―――。
放たれた言葉は感謝。そして少女の顔には達成感と、昂揚感。肩で息をしつつ、自分を讃えるよう、小さくガッツポーズ。
……たかが“コレだけの事”だ、俺はそう思う。けれど―――、少女にすれば、それは“されどソレだけの事”なのだ。
思わず、頭を撫でてやりたくなった。その、健気な姿勢に。しかし俺はそれをぐっ、と堪えた。俺からすれば知らない少女。何より――初対面でいきなりそれもおかしいだろうから。
――しかし、本当にこの娘は誰なのか。感謝をされるような事は……っ!そうだ、あった。ついさっき。俺は黒いあくまから誰かを助けた筈だ。
……や、まあ助けたという訳でなく、ただその誰かを早く、更衣室へ戻したかったからしただけなのだが。
……さて、となるとこの少女は――先ほどの娘か。なるほど、特徴は確かにあっている。小さく、恐らく少5か少6ぐらいだと先ほどの娘もそうだと踏んでいたから。
なら返す言葉は1つ―――。
「どういたしまして。お嬢さん」
出来る限りの、やんわりとした喋り方で、俺はそう言ってあげた。そして、視線が合うようにしゃがみ、堪えた筈だった事をやめ、頭を撫でてあげた。
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