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「あっ……」
俺が頭を撫でると、少女の表情(かお)が綻ぶ。柔らかな笑顔。少女らしい、可愛い笑顔。
何となく、頬が薄く紅に染まっているのは、いきなり撫でられた事からの多少の羞恥心だろう。
けれど表情は確かな笑顔。心に焼き付きそうなほど綺麗で、純真な笑顔。
子供の頃は、こうされると喜ぶものだよなあ。うん、可愛い少女に笑顔は付き物だ。良き哉良き哉。
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しばらく、その状態だったが更衣室から出て来る人達がちらほらと出て来そうなので、やめた。
何故だか少女は、残念そうに落胆した表情をしていた。……そんなに撫でられたのが嬉しく、またやめられるのが残念だったのか。
機会があればまた―――と、言ってもそんなに会う訳じゃないだろうか。
ま、とりあえずそろそろ帰ろうか。
俺はそう思い、少女にそれを告げて扉に手をかけた――その時。
「ま、待って、くださいっ!」
―――声に振り返る。そこには、緊張の面持ちをした、少女。
「あ、あの……良ければ一緒に、帰りません、か?」
……え?
「いや―――帰り道、一緒なのか?」
「はうぅっ……ち、違うなんて事、多分無いですからっ! 私の第六感がそう告げています!」
……実はこの娘。相当に面白い娘じゃないのか?それも天然タイプ。
――なんて、少し思う。
俺はそんなこの少女に、不思議と笑いが込み上げてくる。それを押し込めて、俺は自然に答えた。
「ははっ、だといいね。ま、方向が一緒なら――いいよ」
断る理由もない。それに、たどたどしく、けれどしっかりとした意志の見える言葉(ワード)。
あんな風に言われて断れる筈も、ない。
「――あ、ありがとうございます!」
そう答える少女の表情(かお)は、満面の笑顔。夏に咲く、ひまわりにも似た。綺麗で、眩しい笑顔だった―――。
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