『運命の、出会い?』

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 ……ふぅ、と小さく息を吐く。この快楽に身を任せながら。  心地よい温度、立ち込める白い湯気に今時ありそうでない富士山の壁画。  昔の銭湯にはつきものだったらしいが――俺は生憎とその世代の人間ではないのでしらん。  ――さて、今がどこかは説明をしなくてもわかるだろう。そう、ズバリ銭湯だ。  昔からの友人がアルバイトをしており、その親が経営している銭湯だ。  その友人のせいか、ここは割とお世話になっていたりする。ちなみに友人は去年の暮れ頃からアルバイトを始めたらしい。  まぁ、それはどうでもいいのだが。  しかし……銭湯の割に客層が若い。大概の銭湯は爺さん婆さんが好んで来るような場所だけあって、年寄りが主なのだが―――此処は違う。  辺りを見渡しても、俺と同世代ないし少し年上、はたまた少し年下の奴。小学生ぐらいの子供だっている。  流石に銭湯として落ち着くような静かな空間でなくなっているのは確かなんだけどな……。  だからか年寄りが此処は逆に少ない。  何か特別な機能がある訳ではないこの銭湯に若者が集う理由は何か。それはまた別の機会でかまわないか。  ……ふぅ、と再び息を吐く。体が溶けるようなこの感覚――これが堪らない。  爺臭い考え方のような気もするがそれはまぁ、気にしないという事で良いだろう。 「なぁ、お前何分入ってんだよ」  不意に、俺の隣りにいた青年――見た目にして10代後半ぐらい。それが喋りかけてきた。 「ん? 可能な限りは入り続けてやろうかとな」  俺は喋りかけてきた青年に流暢な日本語で返す。いやまぁ日本人である俺が片言をそもそも使う訳ないが。  ついでに言うなら、俺は1時間以上は軽く浸かっている。体や頭を洗ったのはそれ以上前になるか。その前も多少浸かってたし、合計2時間近く此処にいる事になるか。  ちなみに彼は先に述べた昔からの友人にしてこの銭湯でアルバイトをしつつ将来は此処を継ぐ、『竜宮 黎(たつみやれい)』だ。黎は悪い奴ではない、とだけ言っておこう。 「煌、お前脱水症状になんぞ……」  ――む、それはマズいな。  銭湯なんかで倒れるなんて、ダサすぎる。それは避けたい。という訳で湯から上がる。  最後に軽くシャワーを浴びて持っていたタオルで体を軽く拭いたらOKだ。  そして、更衣室と銭湯へ繋げる引き扉を開ける。
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