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「和葉さん」
俺は番台(レジ)に先ほどと変わらず君臨する女性――和葉さんに声をかける。手に握るはお金。小銭。
「あら、皇君じゃない。
帰ったんじゃなかったの? あ、何か忘れ物かしら」
「あ、いや忘れ物って訳じゃなくて……。
何というか、そこでちょっとした事があって、嫌に汗を大量にかいて喉が渇いたんで。コーヒー牛乳をもう一杯」
そこで起きた、事情をかるーくかつごく簡単に、ちょっとした事という事にして説明。実際は、割とちょっとした事じゃ済まないかもしれないが。
そして、俺はそれだけを言うと先ほどから手に握っていたそれを差し出し、渡す。
和葉さんは、はいと、瓶詰型のコーヒー牛乳を俺に渡し、お金を受け取る。そして一気飲み。あ、酒の一気飲みは危険だからやらないように。
―――と、しかし、もしかしたら、俺はこの銭湯の利益にかなりの貢献をしてるのでは?なんて思ってみた。
割と来ているし、決まってコーヒー牛乳は貰う。今日みたいな事が無くても偶に2本貰ったりする事もしばしば。ま、どうでも良いことか。
……それにしても、ゴキブリに驚いてすっぱたがで更衣室から出て来る少女ってなぁ。
と、先ほどの少女の事を思い出す。
危機感がないというか、もう少し自分の裸身を守ろう、と言ってやりたいものだ。
―――さて、コーヒー牛乳も飲み干したという事で、今度こそ帰りますか。
俺がでは、と一礼をすると和葉さんはまたきてね。と返した。
そして扉に手をかけ、再び更衣室を後にした―――。
+
……更衣室から出る。すると、目の前には白いワンピースに、あどけない容姿をした少女。肩口で切りそろえられたサラサラとした黒髪、大きく開いた、いわゆるパッチリとした眼。
大体、小学校高学年。5年生か6年生ぐらいか。
うん、将来性はあり。10年もしたら美人になる事間違い無しだ。……で、何で開けてすぐ目の前?扉の前で誰かを待ち伏せしていたのだろうか。
「あ、あの……」
思考していたその時、少女の口が開いた―――。
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