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さっきまで前を走って行ったのに…突然後ろから現れるなんて不可能だよね…
だってここは一本道しかなくて後ろから来るならこの道を戻るか犬を飼ってる家を通るかしかない。その家はまさに番犬、知らない人が前を通るだけでも吠える。だから絶対気付かれちゃう
「…考え事か?」
頭が混乱してるうちに翼くんの顔が私の顔を覗き込んで来た事でやっと我に返った
「あ、…いや。その‥翼くんかと思って追い掛けていたらいきなり翼くんが現れて、ちょっとビックリしちゃって‥」
なんて説明したら良いか悩む。下手な説明だったから多分笑ってるかな…泳いだ視線を翼くんに向けた
すると何故か深刻な表情になる。怒ってる…?彼氏と他人と間違えて怒ってらっしゃる?
「雪」
内心焦って冷や汗が嫌なぐらい掌を滲ませて、いきなり名前を呼ばれた。…これまで聞いた事ないぐらい低い声で
表情の曇りは一向に消えず緩く静かに唇を開いて声が溢れた
「他人の空似だ。疲れてんだろ…家まで送らせてくれ」
送るたって私の家は直ぐ近く。でも、拒む必要なんてない。せっかく翼くんが送ってくれるって言ってくれるんもん
それに…こんな翼くん初めて見たから……
並んで歩かずに数メートル離れて歩く
夜空にはたくさんのお星さま。淡い月にうさぎがおモチを付いてる。月光の光でもきっと明るいだろう。夜道を月明かりで照らしている
だけど、この空気はいくら明るい星や月の光でも変えられない
一言も喋らない翼くんの広い背中をただ見つめていた。余計に胸がギュッと締め付けられた
例え苦しくても理由は聞かない。たくさん、たくさん考えた。だけど考えたところで意味はない
考えてるうちに、あっという間に着いた
「ありがとう翼くん。夜も遅いのに送ってくれて」
「いや、これぐらい普通だろ。…夜道は気を付けろよ。おやすみ雪」
険しい表情はいつの間にか消えていて何時もの優しい笑顔。挨拶を交わすと同時におやすみのキスをくれた。去り行く姿で見えなくなるまで手を振って見送る。
…考え過ぎかな。さっきのは間違いかも知れない
そんな事を考えて私は玄関の扉を開けて薄暗い家の中に入る。うん、きっと気のせいだよ。気のせい
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