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†
改札を出ると、駅前の人通りはすでにまばらだった。
月末の忙しさはどこも似たようなものだろうが、腕時計を見るともう午後10時を廻っている。
(今日はだいぶ遅くなったな~。早く帰ってビールでも呑も)
肌に触れる夜風が少し、秋の気配を感じさせる。
ふと、通りの向こう側に見慣れない建物を見つけた。
(あれ――?)
あそこは確か空き地になっていたはずなのに。
今朝はあっただろうか?
(てゆうか、あんな建物、ほんの2~3日やそこらで建つはずがない――)
通りのこちら側から見る限りでは、たいそう立派な洋館に見える。
私は何故か、吸い寄せられるように通りを横切り、その建物のそばへと駆け寄っていた。
煉瓦造りの塀の向こうに、真っ白い木造の建物が、確かに建っている。
遠目では気がつかなかったが、2階建てのその建物は、窓枠もすべて木造りになっていて一見するとまるで、古い木造校舎のようだ。
鉄格子の門の扉から向かって正面に、玄関ポーチが見えた。
――外灯が点いている。
家の中の明かりは点いていないようだが、人が住んでいるのだろうか……。
私は思わず、門を押してみた。
キィーッ、と音たてて、扉が開く――。
「何か御用かしら?」
背後から、鈴の鳴るような、女性の声が聞こえた。
ぎくり。として振り向くと、私と同い年くらいの、ほっそりとした色白の女性が立っている。
「あ、いえ、別にッ……ただ、可愛い建物だなー、と……」
慌てて平静を装うとしたが、思いきり動揺してしまった。
これじゃ十分に怪しい。
「ご近所の方?」
その女性が、私に向かって微笑んだ。
――綺麗な人だ。
透き通るような白い肌に腰までかかる豊かな長い黒髪、大きな瞳。それにとても心地よい声をしている。
「あ、はい、ここから歩いて5分程のアパートに……見慣れない建物だったのでつい……すみません」
別に他人の家を覗き込むつもりはなかったのだが、なんだかバツが悪い。
「良かったらあがっていかれます?」
私の様子を気づかうように、女性が言った。
――こんな夜遅くに他人の家へ?
「いえ、もう遅いですし、また今度……機会があれば」
当然の返事をしながら、私は何故か家の中を覗いてみたい気がしていた。
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