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学校からの帰り道。いつも通る近道に、近所では有名な意地悪コンビを見つけた。三年生でデブのこうたと、同じく三年生でチビのたけしだ。
マンションとマンションの間を抜ける、その細い通路は、大人は通らない。けれど、ここを抜けると、近道なのを、近所の子供たちはみんな知っていた。ぼくらは、この通路を「緑の絨毯」と呼んでいる。日陰にもかかわらず、いつでも雑草が青々と生えているからだ。
ぼくの足は、通路の入り口で、ぎくりと、止まった。そいつらにいじめられたことが、何度もあった。二人はぼくに気づくと、顔を見合わせて、にやりと笑った。
逃げろ、と自分に言う。けれど、怖くて足が動かない。コンビが笑いながらやってくる。
「いいランドセルだな」
「ほんとだぁ。見せてみろよ」
こうたが手を伸ばして、ぼくのランドセルをぐいっと掴む。ぼくの体が引きずられるように倒れる。たけしがぼくの背中からランドセルを奪うと、パカンとあける。そして、逆さにしながら走り出す。
「あ」
という間だった。ぼくのランドセルの中身は、緑の絨毯の上に、ばらまかれた。二人は、通路の出口で、大きな声で笑った。笑い声だけを残して、消えた。
ゆっくりと起きあがる。膝についた泥を落とす。目の前にあるふでばこを拾う。その指先が、涙でかすんでいく。
悔しかった。何にもしてないのに意地悪をされる。なんの抵抗もできない。
悔しい。悔しい。あんな奴ら、大嫌いだ。
最後に落ちていたランドセルに、拾い集めた教科書やノートを入れる。袖で涙を拭く。そのとき、ふと、後ろに気配を感じた。
魔王が来た。
ぼくは、後ろを振り返らずに魔王に言った。
「いじめっ子は、いらないよね」
「きみの望むとおりに」
あのやわらかな声が、いつものように答える。ぼくが振り向いたときには、魔王はもう消えていた。
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