魔王

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「今そこで、交通事故があったのよ」  買い物から帰ってきた母さんが、リビングでテレビを見ていたぼくに言った。アニメの再放送に夢中になっていたぼくは、適当に返事をする。 「それがね。隣のマンションの、こうたくんとたけしくんなの」 「え?」  ぼくのテレビへの集中力がぷちんと切れる。思わずソファから立ち上がって、台所のかあさんを見た。 「二人で歩いているときに、車が突っ込んできたんですって。救急車やパトカーが来て、大変だったみたい。二人とも大けがしちゃったみたいで。けんちゃんも、車には気をつけてね」  ぼくの心臓が、ばくばくと音を立て始める。  あの意地悪コンビが、車にはねられた。大けがをした。ぼくが、魔王にお願いしたすぐ後だ。これは、偶然じゃない。  魔王がやった。魔王がやった。魔王がやった。 「違うよ」  声がした。リビングの入り口に、魔王が立っていた。 「違わない。おまえがやったんだ。二人を事故に合わせたんだ」 「違うよ」 「うそだ」 「きみが、そう、望んだから」  魔王が、ゆっくりとそう言った。
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