引っ越し

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《う~ん。今日も快晴!言う事なし!》 ゴールデンレトリバー♂のドンは伸びをしながらつぶやいた。もちろん人間に犬の言葉が通じる訳がない。 ここは、とある田舎町。人口が少なく、近隣の住民とも自然と仲良くなれるところだ。 《よぅ相棒…ご機嫌じゃねぇか》 戸の隙間から入ってきたのは雑種犬のクロだ。真っ黒なんで、そういう単純な名前がついたらしい。ドンとクロは大の仲良しなのだ。 《ドン…いよいよ今日なんだな》 ひとしきり犬の挨拶(お互いの、お尻のにおいを嗅ぎあうのだ)を済ませてからクロがつぶやいた。 《うん。今日で、この町ともお別れなんだ》 飼い主の転勤で、家族全員、大都会への引っ越しが決まっていた。もちろん、ドンも一緒だ。 《寂しくなるな…》 首を下げ、クロがつぶやく。ドンも同じ気持ちだ。しかし、ここで泣く訳にはいかなかった。 《クロ…僕は君の事、絶対に忘れない》 ドンはクロの額に自分の額をくっつけた。 《ありがとよ相棒。でもな、都会に出ていった奴らは田舎町の事なんざ、すぐ忘れたまうのさ》
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