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冬季合宿二日目の幕開けは、不気味なほど平穏だった。
そう、嵐の前の静けさのように。
「おはよう、宥志」
「おはよ」
昨夜、征紀がセットしておいた携帯のアラームで同時に目を覚ましたふたりは、お互いにそう挨拶を交わして身支度に取り掛かった。
部屋にひとつしかない洗面台で、ふたり仲良く並んで歯を磨く。
洗面台に備え付けの鏡を覗き込み、征紀がひとり幸せを噛み締めていることは言うまでもない。
それもそのはずで、鏡の前に並ぶふたりは、まるで新婚夫婦のように仲むつまじく見えるのだ。
先に歯磨きを終えたのは、宥志だった。
口を漱ごうと身を乗り出す宥志に、征紀は少しだけ身体を後ろにずらして場所を空ける。
「はんきゅ」
歯ブラシをくわえたまま宥志は礼を言って、両手に掬った水道水で口を漱ぐついでに顔も洗ってしまう。
「はぁ、さっぱりした」
そう言って宥志が顔を拭きながら、征紀に場所を譲った。
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