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ぼーっとする俺を尻目に、親子は去っていった。
俺にもサンタが来る、か。見込みはないねぇ。
また俺は街を歩く。当てもなくふらふらと。
もうあの子供も寝ただろう。きっと明日両親が枕元にプレゼントを置いてくれるさ……
飴をポケットにしまうと、指先が紙に触れた。
こんなに金はある。雪は降らせられなくとも、あの子のためにちっこいぬいぐるみくらい……
俺は親子の出てきた自動ドアから、コンビニに入った。
「いらっしゃいませー」
形ばかりの挨拶が俺にかけられる。
クリスマスムードの店内、棚には飼い主を待つトナカイが座っている。
こいつかな。
手を伸ばすと、角が手にぶつかりトナカイは落下した。屈んでトナカイを救出した俺の目に、それは入ってきた。
俺はあの一軒家の屋根にいる。
姿を見られずにここに登るのはかなりの重労働だった。通報されたら一発で逮捕だな、これは。
一階には電気が点いていて、あの子しかいなかった。
手に握る白いビニール袋から、いくつかのパッケージを取り出し、裂く。
中身は白い粉、製菓用のパウダーシュガー。
コンビニで目についた途端、俺はすぐさまこれを買った。
本当の雪ではないけれど、きっとあの子は喜ぶ。
本当のサンタではないけれど、きっと俺は――
ゆっくりと袋を降ると、サラサラと砂糖がこぼれていく。窓から見えるように、落ち着いて、少量ずつ。
「雪だ!」
足下のずっと低い位置から、微かな声がした。
なかなか窓が開かない。きっと雪を眺めているのだろう。
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