~序章~

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ヤバい…   最初に思った言葉はそれだった。 見慣れた筈の帰路は、異界と言うのにふさわしいものに変わり果てていた。 街路樹は一本残らず腐っており、街灯は蛍光灯の光ではなく、真紅の色で、暗闇を彩っている。   赤い光の中に、「何か」がいた。   「狼男…?」   「何か」を見て、久山 理緒(くやま りお)は、思わずたじろいだ。 数メートル先で、狼が二本足で立って、歩いて、家の塀や電柱を爪で容易く切り裂いているのだ。   幸い、俺の事には気付いてないらしく、狼男は電柱をズタズタにすると、道路を拳で打ちだした。 銀色の体毛に覆われた腕は、コンクリートを紙のように貫通する。   不意に狼男がこちらをふり向いた。 瞬間、理緒に肉薄する。 その鋭い爪が、理緒の身体をバターのように切断する。   ああ…俺…死ぬんだ…  頭に死という文字が浮かぶ。   痛みは無い―   何も見えない…何も聴こえない…   ふと、視界が回復した。   理緒は道路に大の字で仰向けに倒れていた。   街路樹は葉のない寂しい姿を見せるが、腐敗はしていない。   街灯も蛍光灯独特の白い光で辺りを照らしている。   「…夢だったのか?」 だとしたら恐ろしい悪夢だ。こんな夢、二度と見たくない。   だが…   「貴方は…死んだ」   目の前に、一人の少女が立っていた。   黒とも蒼ともとれる髪が、とても印象的である。   少女は、口を開き、もう一度言った。   「貴方は死んだの。人狼に殺された。生きたいのなら―」   私と一緒に来て   これが、少年理緒と少女のラストクロニクル(最終年代記)の始まりだった――
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