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最初の兆候は、桜の葉が散り始めた頃だった。
学校までの桜並木の下、降り積もる落ち葉を、わざと踏み分けて歩いていた。発酵した葉のにおいが冷たい空気に広がる。鼻の奥にしんとしみつく。
足元でくしゃりと音がした。違和感を感じ、立ち止まる。踏み出した左足が変だ。足の付け根から足首までが小さく震えている。両の足をそろえ、等しく体重をかけてみる。左だけがおかしい。しっかり立っているはずなのに、右足のように力が入らない。震える。
運動不足ではない。部活はしてないが、ストバスなら毎晩のようにやっている。駅前の専用コートには、夜になると仲間が集まってくるのだ。
足元から視線がはずせない。
なんだ、これ。
身体の内側をざらりとなにかに撫でられた気がした。うなじのあたりの毛が逆立つ。ぶるりと全身に震えが走る。普通じゃない。違和感が、違和感でなくなり、異変になる。足元が凍りついたように動けなくなった。ざわざわと背筋を這う悪寒。心臓がどくどくと音をたてる。
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