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様々な匂いが混じり合ったアトリエの中、僕は一つのある作品を手掛けていた。
まだ出来上がっていないそれは、人の頭ぐらいある球体で橙色をしている。
――なぜかは分からない、とにかく僕はこれからのそれに手を加えることが出来ないでいた。
ある日、デザイナーとして世界的に有名な僕の友人、Aがアトリエへ訪れた。
「これは未完だね?面白い作品だ、だけど迷いのようなものを感じる」
Aは僕のそれを見てすぐにそう言った。
「そうなんだ、もうどうしたらいいか分からないよ」
僕はコーヒーを作りながら困った顔をしてみる。
そんな僕の困った顔を無視し、Aはメモ帳をちぎって何かを書きなぐった。
渡されたその紙には【未完】と書かれている。
「それに名前を書くんだ、それでこの作品は終り、君は開放される」
納得はいかなかった、でも僕は名前を書いてみる。
そうしないとダメだと僕の本能が言ったのだ、仕方ない。
何年か経ち、僕は個展を開く。
そこでは様々な人が訪れ、僕は【未完】の感想を求めた。
そして一人の女性が【未完】を見て、困ったように腕を組んだ。
「これってもしかして本当はこうじゃないですか?」
彼女はそう言って自分のメモ帳に文字を書いていく。
僕はメモ帳を覗きこんだ、見るとそこには【蜜柑】と書かれていた……。
終
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