3人が本棚に入れています
本棚に追加
鋼の打ち付け合う音。
悲鳴、雄叫び、ありとあらゆる音が混ざりあっていた。
累々と転がる死体。
逃げ惑う人々。だが、それも炎に巻かれ見えなくなった。
地獄のような光景、死と戦い。これを混沌と呼ぶのだろう……
解放軍の手により家という家には火が放たれ、美しかった町並みは炎にて彩られていた。
戦闘は激しさを増し、兵と解放軍の戦いに巻き込まれ命を落とす者も少なくなかった。
その戦火が迫り来る中、少年は瓦礫の山に立ち尽くしていた。
諦めか、絶望か……
整えられた黒髪は血に濡れ、黒い瞳は虚ろで、視線は母親の亡骸の辺りをさ迷っている……
母親は矢に胸を貫かれ絶命していた。
「母さん……」
そう呟くと少年はその冷くなった体に縋り付く。
しかし、その背後から二つの影が忍び寄る。
鞣革で作られた鎧に身を包んだ解放軍の兵士だ。
「おい、ベルグ。こんなとこにも獲物がいるぜぇ」
「あぁ、ボルグ。ちぃとばかり小さいがなぁ」
その手に携えられた斧からは血が滴っていた。
どちらも同じような顔。ツタのように絡み、縺れ合ったヒゲがその顔を覆っている。
その顔に下卑た笑いを浮かべると少年に歩み寄る……
「ガキのクセに良い身なりしやがって……
のうのうと俺らの税金、血で生きてた奴らだからな……
だがそのツケは払ってもらわにゃなんねぇ」
少年は後ずさるが母親から離れようとはしない。
その姿を見て男達は嘲るように笑った。
「泣かせるねぇ。なぁベルグ。だが死んじまったら肉と骨の塊だろうがよぉ」
ボルグは少年に詰め寄ると冷たい刃をその喉元に当てる。少年の肌から血が滲む。
「おい!ガキ、怖えぇだろ!命乞いしてみたらどうだ?俺たちゃ優しいから助けてくれるかもよ!ゲヘヘヘェ……」
「……」
少年は虚ろな目ではあるがボルグを毅然と睨み返す。
しかし、その目が気に障ったらしい。少年を蹴り飛ばす。その小さな身体は二、三転すると地面に叩きつけられた。
ボルグは唾を吐くと鈍く光る斧を振り上げる。
「ケッ…… 可愛いげのねぇガキだっ!」
そして風を切る音と共に無情にも斧が振り下ろされた……
最初のコメントを投稿しよう!