私の形

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 そんな毎日を続けながら、『私』はいつしか気付いた。  精彩さに欠けた風景が、仲間には樹々の葉が瑞々しい緑に、空が鮮やかな青に、雲が眩いばかりの白にと、色彩と共に立体感を増していくのに対し、『私』の風景は汚さを孕んだ茶色や灰色といった負を思わせる色に塗り潰されていたことに……。  本来の色ではない色――それは苦痛の色だった。  『もうやめよう』という、虐めを止めさせる促しの言葉が口に出すことが出来ず、まるで自分が虐められているかのように思える日々……。  味も素っ気もなく無為に時が過ぎていく中で、やがて『私』は虐めを見ないように目を反らすことで、苦痛を和らげることを覚えた。  それが、虐めの輪に加わっていながら、必死に傍観者を演じようとする惨めな自分を守る唯一のすべだった。
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