侵食する現実

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 チャイムが鳴った。  ホームルール開始を知らせるチャイム。担任の教師が来るのも時間の問題となった。  『私』たちは期待に胸を躍らせて、その時を待った。  教室の前と後ろのドアがほぼ同時に開いたのは、その直後だった。  前からは担任の教師。そして後ろから入ってきたのは、待ちに待った結果の報を持つ仲間の姿だった。  セミロングの髪を最近茶色に染めた女の子。  名前は白浜そのか。  心なし弾む息を整えながら自分の席に向かったそのかは、『私』たちに向けて人差し指と親指で『マル』を作り、片目を閉じてウインクした。  成功の合図だった。  『私』を除いた仲間は、分かったというようにウインクを返した。  静かに笑みを交わす『私』たちは、クラスの全員が立ち上がったことに遅れて気付き、慌ててそれにならった。  気を付け、礼、の号令が掛かり、挨拶を済ませて席に座る。  そしてまた、ほくそ笑む。  『私』は、ただ黙って歪みを見つめ、苦痛に耐えた。  今日もまた、一日が始まった。
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