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『キャアアア!!』
キメラが興奮して暴れ出さないようにオレは急いで悲鳴を上げた高司の口を塞いだ。
(よかった…どうやら一匹のようだ。)
『このベンチの下に入ってて。ヤツに気付かれると厄介だから絶対に声は出しちゃ駄目だからね。』
高司は同様しながらも小刻みに首を縦にふり、オレに言われた通りにベンチの下に身を隠す。
高司は普通の人間だ。キメラと戦うなんて不可能…こうするのが1番だろう。
今はキメラと戦えるのはオレしかいない、なんとしても高司を守らなくては…。
オレは右手の指を伸ばして手刀の構えをとる。
……?
………そうか!!
オレの頭の中で緩んだ糸が一気に緊張したのを感じた。
そうだ…オレにば術(すべ)"がある。オレが拠点を攻める時、キメラと戦闘をする時に必要不可欠だったこの゙術(すべ)"があったのだ。
これは…この力は、優子を想うオレの気持ちが初めて形として現れたもの。
この力で必ず優子の仇をとってみせる。
これが優子の言う、オレの゙何か"なのかどうかは定かではないが……
『高司さん…ありがとう。』
『え?』
そして一気にキメラとの距離を詰める。オレは摩擦係数(μ)を操作で跳ね上げた右手刀で腹部を切り裂いた。
キメラは攻撃をする間もなく二つの固体となり地面に落ちる。
『高司さん、もう大丈夫。出てきてもいいよ。』
高司はベンチの下からひょこりと顔を出した。そして辺りを見渡し、安全を確認してからベンチから出て言った。
『今の化け物みたいなヤツは何なの!?』
『あれはキメラといって、ある組織が人工的に作り上げた生物兵器だよ。゙術(すべ)"を知らない人間では戦うなんて到底できない。』
高司は不思議そうにオレの顔を覗き込む。
『す…べ?』
『ごめん、これ以上は聞かないで。
そして、さっきはありがとう。これはオレじゃないと駄目なんだよね。今はオレしか優子を救えないんだよ…気付かせてくれてありがとう。』
『どう致しまして。また何かあったら言ってね?気合い入れてあげるから。』
『いえ…結構です。』
しばらくオレ達は笑い合い、そしてそれぞれの家に向かって歩きだした。
『高司さん!』
『なに?』
『優子に…もう少しで迎えに行くって伝えてくれないかな?』
『了解!』
『ありがとう。それじゃあおやすみ。』
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