第九章

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 坂江は勢いよく地面を蹴りつけた。その跳躍は10メートルほど先に立つ佐々木の位置まで届く程で、佐々木との距離を一気に詰める。   『……ぐっ!!この跳躍、もしかして大樹と同じ…!?』   佐々木は不意を突かれながらも構え、防御の体制に入った。 それを見て坂江はニヤリと笑う。   『とりあえず、挨拶がわりだ。』   坂江は腰を支点に勢いよく回転した。   『…胴回し蹴りだと!?』   胴回し蹴りとは腰を支点に回転し、その回転力で相手の顔を蹴る大技である。破壊力は抜群で命中すれば相手を一撃で倒すことも可能だが防御されると無防備の状態で地に落ちる、いわゆるもろ刃の技である。   佐々木は一瞬動揺した表情を見せたが、すぐに顔を戻し頭の上で十字受けの体勢をとり、しっかりと坂江の攻撃を防御した。 そして反撃を仕掛けようとした瞬間…   ガキィ!!   『……なに!?』   坂江は地面に落ちること無く、そのまま佐々木の腕をとって飛び付き逆十字を決めた。 坂江は相変わらずニヤニヤ笑っている。   『こんなコンボを受けたのは生まれて初めてだろ?早速、片腕をいただくぞ。』   容赦ない攻撃にギリギリと佐々木の腕が軋む。   『クソがぁ!!』   佐々木は空いている方の手で坂江の目に全力で掌底を打ち込んだ。さすがの坂江もそれには驚き慌てて手を放し、距離をとる。   『いやぁ、流石といったところ…躊躇なく目を狙うとはな。普通の人間には出来る事じゃない、勝ちに貪欲な軍人だな。』   『そりゃどうも。それは褒め言葉として受けとるぞ。』   佐々木は腕をさすりながら坂江の言葉に答えた。 それにしても坂江の身体能力は尋常ではない。あの流れるような連続技…まるで゙空中にとどまっている"かのように思える程である。     (大樹と同じ゙術(すべ)"と思ったが…だとしたら今の攻撃を防御しただけでも腕が砕けとるはずやし、オレが万有引力を操作できん理由も説明がつかん。どんな゙術(すべ)"を知っとるんかがわかれば少しは戦えるんやが…)   距離を置いてじっと考える佐々木を見て坂江は肩を上げて呆れたように言った。   『思ったより強くないな、つまらないからそろそろ片付けるか。』   そう言うと坂江は佐々木に向かって走り出した。   (どうする…どうすればいい…)
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