第九章

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     オレと菅藤はお互い、攻撃の届かない距離で相手の出方を伺っていた。いや、一方にはそれ以外の選択肢が無かったのだ。   菅藤はオレの゙術(すべ)"を知っているが、オレは菅藤の゙術(すべ)"を知らない。ひとつわかっている事は、突然姿を現すという事…しかし、ソレだけでは相手の゙術(すべ)"のタイプすらわからない。そんな状況で迂闊に手を出すと返り討ちにあってしまう事は目に見えている。 オレは焦る気持ちを何とか押さえて、この絶対的不利な状況の中をじっと待つしかなかった。       『ふん。なんだ、何もしないのか。…まぁ、何も考えていないただの馬鹿な餓鬼ではない事はわかった。しかし…』       『……なに!?』   菅藤は一瞬、重心を落としたかと思うと瞬きもする間もない速度でオレとの距離を一気につめた。   『来ないのなら、こちらから行かせてもらうぞ!!』   菅藤はブレイクダンスのような動きで不規則に攻撃を繰り出してきた。極端に短すぎる攻撃の間隔はオレに反撃をする余裕を与えない。   菅藤は甲高い笑い声をあげながら一方的な攻撃を続ける。   『アハハハハ!!どうだ?カポエラなんて初めて相手にするだろう?』   …ガス!!ガス!!    菅藤の攻撃の一撃一撃がオレの防御する両腕に容赦なく食い込み、鈍い痛みを与え続ける。   『そらぁ!まだまだいくぞ!』   『…っ調子に、乗るなぁ!!』   オレは手刀をつくり、菅藤に向けて斬撃をくわえた。菅藤はそれをカポエラ独特の滑らかな動きで器用にかわす。空手や日本拳法には必要不可欠である゙締め"の動作…これを無くすことで攻撃から防御の転換をスムーズにしているようだ。   だが、これで一つわかった…     菅藤は、摩擦力無視の゙術(すべ)"を知らない。     『菅藤、今度はオレが攻める番だ!!』   オレは何度も菅藤に斬撃を繰りだした。菅藤は避ける以外の防御法しかないオレの攻撃に、たまらずバックステップで距離をとる。   『さすが、特殊作戦軍の訓練を受けただけあって攻撃の隙が少ない。これは一筋縄ではいかんな。』         『ならば……』   菅藤は構えをとき、初めて両かかとを地につけてずしりと重心を落とした。 そして怪しくニヤリと笑い、両腕を高く上げた。     『本当の゙闇"を見せてやろう……』
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