第一章

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 オレは部屋を出て階段を下りた。   あの男さえいなければ…。あの男さえいなければ、優子はこんな酷い目に会わなかったはずだ。 憎い…。   オレは自分の拳を痛いくらいに握りしめていた。   オレが病院を出ようとしたとき、扉のすぐそこにオレを助けてくれた男が腕を組み、柱に寄り掛かって立っていた。しかし、オレはその男を無視して扉の前に立った。   『どこに行くんだ?家に帰るんなら送っていってやるぞ。』 その冷静すぎるほどの男の口調が耳に触り、オレをさらに苛立たせた。 『家には帰らないよ。今日はありがとう…。』   オレは男の方を振り向きもせずに扉に手をやった。男はオレに言う。   『もしかして、敵討ちとか…じゃないよな?』 オレはとうとう堪らなくなって叫んだ。 『だったら何が悪いんだよ!?アンタにはわからないだろ!!世界で1番愛してる女の子が目の前で顔が変わるまで殴られて…あの男さえいなければ…オレは普通の生活を続けることが出来たんだ。全部あの男のせいなんだ!!だから…!!』 男は下を向いて鼻で笑う。   『お前、悪口しか言えないのか?情けねぇな。お前に力が無かったせいもあるんだろうが。お前に力があれば、ああいう結果にはならなかったよなぁ?』 『お前なんかがぁああ!!』 オレの怒りは頂点に達し、ついにオレは男に殴りかかった。 男は壁に寄り掛かったまま、両手を前へとかざした。…その瞬間だった。   オレは男に触れられもないのに後方に凄い力で引っ張られた。それはまるで急加速した車に乗っているような感覚だった。そのままオレは後の壁に衝突した。男はオレに向かって言った。   『さっきからオレは悪くない、悪いのは相手だ…とか言っとるが、お前はただ自分が傷つくのが怖いだけだろ?怖いから自分の全てを正当化しようとするんだ。お前は何がしたいんだ?』 『オレは…』   オレは自分の手を見た。それは傷一つない綺麗な掌であった。確かにオレは何もしていない…何も出来てない。今、本当にオレがしたいことは…。  男はオレにもう一度きいた。   『もう一度きく。お前は何がしたいんだ?』 『オレはこの手であいつを握り潰してやりたい…!!…それだけだ。』   男はニヤリと笑って顔をあげた。   『いいじゃねぇか。よし、オレが協力してやるよ。』   オレ達は病院を出た。
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