52人が本棚に入れています
本棚に追加
/150ページ
オレは部屋を出て階段を下りた。
あの男さえいなければ…。あの男さえいなければ、優子はこんな酷い目に会わなかったはずだ。
憎い…。
オレは自分の拳を痛いくらいに握りしめていた。
オレが病院を出ようとしたとき、扉のすぐそこにオレを助けてくれた男が腕を組み、柱に寄り掛かって立っていた。しかし、オレはその男を無視して扉の前に立った。
『どこに行くんだ?家に帰るんなら送っていってやるぞ。』
その冷静すぎるほどの男の口調が耳に触り、オレをさらに苛立たせた。
『家には帰らないよ。今日はありがとう…。』
オレは男の方を振り向きもせずに扉に手をやった。男はオレに言う。
『もしかして、敵討ちとか…じゃないよな?』
オレはとうとう堪らなくなって叫んだ。
『だったら何が悪いんだよ!?アンタにはわからないだろ!!世界で1番愛してる女の子が目の前で顔が変わるまで殴られて…あの男さえいなければ…オレは普通の生活を続けることが出来たんだ。全部あの男のせいなんだ!!だから…!!』
男は下を向いて鼻で笑う。
『お前、悪口しか言えないのか?情けねぇな。お前に力が無かったせいもあるんだろうが。お前に力があれば、ああいう結果にはならなかったよなぁ?』
『お前なんかがぁああ!!』
オレの怒りは頂点に達し、ついにオレは男に殴りかかった。
男は壁に寄り掛かったまま、両手を前へとかざした。…その瞬間だった。
オレは男に触れられもないのに後方に凄い力で引っ張られた。それはまるで急加速した車に乗っているような感覚だった。そのままオレは後の壁に衝突した。男はオレに向かって言った。
『さっきからオレは悪くない、悪いのは相手だ…とか言っとるが、お前はただ自分が傷つくのが怖いだけだろ?怖いから自分の全てを正当化しようとするんだ。お前は何がしたいんだ?』
『オレは…』
オレは自分の手を見た。それは傷一つない綺麗な掌であった。確かにオレは何もしていない…何も出来てない。今、本当にオレがしたいことは…。
男はオレにもう一度きいた。
『もう一度きく。お前は何がしたいんだ?』
『オレはこの手であいつを握り潰してやりたい…!!…それだけだ。』
男はニヤリと笑って顔をあげた。
『いいじゃねぇか。よし、オレが協力してやるよ。』
オレ達は病院を出た。
最初のコメントを投稿しよう!