第三章

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『よし、午後の訓練を始めるぞ。まずは裕司、左構えをとってみろ。』   オレは昨日、家で何度も繰り返し練習した左構えの姿勢をとった。 オレの体は地面に対してずっしりと根を張り、安定していた。 佐々木も満足気に頷く。   『よしよし、綺麗な構えだ。その様子じゃあ家でしっかり復習してきたみたいやな。じゃあそのまま゙突き"ど打ち"に入るぞ。』   佐々木は左に構え、自分の拳をゆっくり前に出しながら説明した。   『左突きをする時は、拳を出す事に執着しすぎないことが重要や。 右の肩を引く。すると自然と左の肩が前に出る。その動きに連動させて左拳を出す。しかし、あまり右肩を引きすぎると体が開けすぎて連撃をスムーズに出せない。自然に引ける程度まで引くんや。 じゃあ次は早くするぞ。』   そう言うと佐々木はオレから視線をはずし、目の前を見た。 オレは格闘においては全くの初心者である。しかし、この時の佐々木の威圧感は普通ではなかった。びりびりと肌に電撃が走る感覚、静かすぎるほどの静寂、そのどれもはオレが今まで体験したことのないものだった。   そして佐々木は左拳を前へと突き出した。全く無駄のない動き、拳の軌道は定規で引いた直線のように真っすぐで美しい。   さらにその左拳が佐々木の元へ戻るとほとんど同時に右拳が繰り出された。   そして攻撃が終わった佐々木は構えをといた。   周囲の空気が元に戻った。   『…これが、゙左右の面突き"や』         …左の突きの訓練じゃなかったっけ?
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