第五章

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つまり…ただ自分が見たかっただけだという事か? では佐々木への感謝も全てオレの勘違い?オレは急に恥ずかしくなった。   『さてと、目的は達成したし…帰るか?』   佐々木は満足気な表情でスタスタと車へ歩いて行った。なんてマイペースな男なんだ。   エンジンをかけ、オレに早く車乗れと言わんばかりにクラクションをならす。その常識はずれの行動に周囲の観光客の視線が佐々木の車に集中する。オレは慌てて車に乗り込んだ。   (…コレだったらイナサ山の噂以前に恋人とわかれるだろう…。)   帰り道での車のなかで佐々木は楽しそうに世間話をした。余程イナサ山に行けた事が嬉しかったのだろう。 こういう雰囲気は嫌いではないのでオレも一緒になって話をした。   帰り道もいたって何の問題もなく進み、オレは家に帰る……。           …はず、だった。           『……おい、裕司。少しばかり家に帰るのが遅くなるかもしんねぇぞ。』   あと20分程で帰り着くあたりの車通りの少ない道で佐々木は車を急に減速させた。   ふと佐々木の顔を見ると先程までのニコニコした表情は消え、何故か真剣な赴きになっていた。何かあったのか?   『佐々木さん、どうしたの?急に真面目な顔して。』   『ガードレールの向こう側の茂みをよく見てみろ。不自然に動いているのがわかるか?何かいるぞ。』   オレにはその茂みの不自然な動きがわからなかったが、佐々木は冗談を言っているようには見えなかった。オレは四周を警戒した。 ドクンドクンと自分の心臓が鼓動する音が聞こえるのがわかる。それもそのはずである。オレはキメラをこの目で見たことがあるのだ。あんな化け物に不意を突かれでもしたら軽傷ではすまないだろう。   『………。』   ガサッ!!   『危ねぇ!!伏せろ裕司!!』   ………。   飛び出してきたのは、野性の鹿であった。こんな時に限って珍しい事が起こる。オレと佐々木は深く息をはいて胸を撫で下ろした。         だが…………         ドゴォオオオオン!!!
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