第五章

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爆音と共に車は横に激しく吹き飛び、反対車線側のガードレールに衝突した。   オレ達は不意を突かれたのだ。キメラは鹿の近くにいてオレ達の様子を伺っていたのだろう。そこで鹿が出て来て安心したところを狙ったのだ。まんまと相手の策略にはまってしまった。   キメラは横転してもはや走行することの出来ない車に、その鋭くとがった牙を剥き出しにしてゆっくりと近づいてきた。このままではマズイ…。   佐々木は?オレは運転席を見た。佐々木は衝突の衝撃で変形した車のボディに足を挟まれて身動きが取れない状態だった。   今キメラと戦う事が出来るのは佐々木だけだ。たとえオレだけが逃げたとしてもすぐにキメラに捕まって殺されてしまうだろう。 オレは佐々木を運転席から引きずり出そうとした。だが、思ったより強く挟まっているために動かない。   万事休す…。オレはパニック状態に陥り、一通りのないと道路にもかかわらず何度も叫んで助けを求めた。   『裕司!!後ろや!!』   佐々木の叫びに反応してオレは後ろを振り向いた。 するとオレの座っている助手席側の窓からは足らしき物が見えている。おそらく…キメラの。   どこかに行ってくれ…。オレは短い時間に何度もそう祈った。   しかし、現実とは酷いもの。 オレの祈りは虚しく、キメラは助手席側のドアをこじ開け、そこで泣きながらガタガタ震えているオレを引きずり出した。   キメラはオレの胴を片手で掴み軽々ともちあげる。オレはその手から生まれる尋常でない握力で締め上げられた。ギシギシと今まで聞いたことのない音が体から聞こえてくる。   そしてオレの意識は徐々に薄れていった。     不思議と…オレを取り巻く全ての時間がゆっくりと流れているように感じた。
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