第五章

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 しかし佐々木は我狼伝説のキム・カッファンの挑発のように両肩を軽くあげ、車の方を横目で見ながらニヤリと笑って言った。   『訓練っつったってどうするんだよ?車はオジャンだぞ。これじゃあ家にも帰れねぇな。』   ……そういえば車はキメラから攻撃を受けてベコベコになった上に、さらにオレが切断してしまってもはやそれはスクラップへと化していた。しかもここは人気の少ない山道…ヒッチハイクなんて猿岩石でも不可能な場所だろう。   オレが頭を抱えて困り果てていると、佐々木が思い出したように言った。   『そういえばここば諫早(いさはや)"だったな。だったら近くにオレの同僚の実家があるはずや。しかも今は調度みんな盆休暇にはいっとる…アイツも実家でゴロゴロしとるやろう。行ってみるか、裕司?』   まだ会ったことのない人の家にいきなり行くのは気が引けるが、オレには他の選択肢が思い付かなかったので渋々ついていくことにした。   佐々木が言うには、この山道を抜ける事ができれば同僚の家はすぐそこだとか…。だから今はとにかく山道を歩くだけだった。   しかし、気になる…。   佐々木の仲間に会いに行くのだ。やはり佐々木と同様、何らかの゙術(すべ)"を知っているのだろうか?だとしたら一体どういゔ術(すべ)"なのか…。オレは期待やら不安やらが混ざり合い、複雑な心境になっていた。   そんなオレを察したのか、佐々木が笑顔でオレに言った。   『安心しろ裕司。今会いに行っているやつは変なやつじゃねぇよ。まぁ、オレよりは変わってるがな。』         ………じゃあ゙変なヒト"確定じゃないか。   オレは取りあえず、強烈な相手だったとしてもダメージを最低限にとどめられるように最悪の事態を妄想しながら山道を歩いた。
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