第七章

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オレは織田に見向きもせずに、後方の壁を手の平で何度も撫でた。     『何をしてるんですか?壁に縋り付いても無駄…外には逃げられませんよ。』       『無駄なもんか…。』         『……………何ぃ!?』   オレが撫でた部分の壁がドロドロと溶けだし、やがて人が出入り出来るほどの大きな穴が開いた。  それと同時に織田のスーパーボールは速度を無くし、力無く床に落ちていく。オレは予測不能の事態に動揺している織田に言った。   『…この箱がコンクリートならオレ達に勝算はなかった。織田、君は重大なミスを侵していたんだよ…オレが何を゙操作"して手で物を斬っているのかをもっと真剣に考えるべきだったんだ。』   オレの言葉に織田はハッと気付いて顔をオレに向けた。   『そうか!!゙摩擦熱"を使ったのか!?』   『その通り…オレの゙術(すべ)"はオレの手によって起こる摩擦力を操作できる。でも、物体間の摩擦によって起こるエネルギーは全てが運動に使われる訳ではない。全体の何%かば熱"へと変換されるんだよ。したがって手刀ではなく手の平を使うことにより゙操作"できる範囲を広げ、その範囲の摩擦エネルギーを爆発的に上げたんだ。 熱に変換されるのがほんの何%だとしても、摩擦エネルギーが物凄く大きければ……結果はわかるよね?』   『それで…その゙熱"をつかって鋼鉄製の壁に穴を開けたのか!?』   オレはニヤリと笑って頷いた。しかしもうオレには織田を攻撃する力は残っていなかった。それもそのはず、摩擦力を爆発的に上げたのだ。体力の消耗は計り知れない。   でも大丈夫…。   オレの開けた穴の向こうから幸一が織田に睨みを効かせていた。それを見て織田はガクガクと膝を震わす。   『こ……幸一ぃ!?』   佐々木は拳をボキボキとならして攻撃の姿勢をとり始めた。 幸一はポケットから眼鏡を取り出し、静かにそれを装着して言った。   『仲間が……世話になったみたいだね。』           ………この二人がいれば安心できる。
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