第一章

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『あのポストの所を右に曲がって…。』   帰り道はいつも優子の家の前まで二人で歩いている。それまでの距離は2キロメートル程だ時間にすると約40分。しかし、今日の優子が言う経路だと5キロメートルはある。幸せな時間が今日は2.5倍に増えたのだ。 オレは緩みきった顔を隠すことも出来ず、やはりヘラヘラ笑っていた。   帰り道での会話はたいした内容ではなかった。授業の内容、友達との会話や休み時間中にクラスの男子がした、おかしな行動などである。しかしこれがオレには無性に楽しく、幸せに感じた。このまま時間が止まって優子の笑った横顔を眺め続ける事が出来ればいいのに…。     楽しい時間は早いものだ。オレ達はあっという間に、二人ではまだ通ったことのない道の近くまでたどりついた。   『次を曲がった道路はまだ二人では歩いてないよね?じゃあ今日は記念日だね。』   優子はオレの顔を下から覗き込み、ニッコリ笑った。オレはその時、もう死んでもいい!!と思った。…というかオレの意識は昇天していた。   そんなピンク色のムードを漂わせながらオレ達は目の前の角を曲がった。           …そのさきが悲劇の幕開けである事も知らずに。
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