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一人前の白拍子となりそれなりに名前が知られるようになった頃、源氏方の酒宴に呼ばれることになった。
(もしかしたら、牛若かも知れない。)
牛若から受け取った緋扇を握り締めた。
静ははやる気持ちをおさえながら舞った。
舞う度に牛若を探したがそこに牛若を見いだすことは出来なかった。
ただそこにいたのは、大柄な好色そうな顔で静を舐めるように見る男の姿があった。
「茜姉、聞いて!!もう最低!!人を舐めるように見て、下品ったらありゃしない!」
自分の部屋に戻った静は茜に思っていた事をぶちまけた。
茜にとっても静は妹みたいなものだったから、気心も知れていた。
「静、まだ向こうでは酒宴が続いてるのだから大人しくしといたほうがいいわよ。」
茜は静を嗜めた。静は一人前の白拍子になりはしたが、元来の気性は治らなかったのだ。
宴もたけなわになった頃、静は一人の武将に呼ばれた。
白拍子とは芸を売り、時には身をも売る商売である。
静はさっきのいやらしい男ではない事を祈りながら武将の部屋に向かった。
「静にございまする。お呼びと聞き参りました。」
「入りなさい。」
男子にしては高い声が聞こえた。
中に入って驚いたのはそこにいたのは、女性と見間違えそうなほど美しい男性だったからだ。
「殿の態度すまなかったな。悪い癖なのだ。」
笑いながらさらに話を進めた。
「静殿もお嫌であったであろう。」
顔に出ていたのかと静はあせった。それでは白拍子失格である。
「隠さずともよい。私も静殿と同じ女子だ。このようななりはしているが、気持ちは分かるぞ。私の名は巴という。今日は一晩私に付き合ってくれ。」
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