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戸田駅
『生瀬さんって、あたしのことどう思っているんですか?』
単刀直入な質問に、生瀬はたじろいだ。
『え、好きだけど?』
『じゃあ奥様はどうなんですか?』
『…あんまり好きじゃない』
『でも、生瀬さんは奥様のところへ帰って行くんですよね』
『…』
安田の地元である、戸田駅の前に二人はいた。生瀬が、安田の地元に行きたいと言い出したのが、理由だった。埼京線に乗り、戸田駅について、取りあえず近くの居酒屋に行った。
居酒屋で、生瀬は安田の過去を知った。もともと、職場近くの居酒屋で安田の過去の話を聞いていた。東京に来るまでは、恋人と呼ばれる人はいなかったこと。恋人が出来たが、良い男には巡り会えず、結局一人になってしまったこと…しかし戸田駅前で話した内容は、これ以上のものだった。
『あたし、ホントは高校の時にすっごい好きな男子がいて…
その人はクラスでも結構モテる男子だったんですよ。あたしは
その頃全然モテなくて~』
安田はレモンサワーのジョッキを持ったままで話し始めた。
『僕は高校の頃の安田さんを知らないから…ホントはモテて
て気付かなかったのは自分だけ、だったんじゃ…』
『ないですね!』
生瀬はほとんど口をつけてないビールのジョッキに触れながら安田に言った。しかしその話を遮るように、安田が否定した
。
『それはあたしの高校時代を知らないからですよ。ホントにモテなかったんですから。あたしは結局その人のことを諦めたんです。それ以来、あたしは誰のことも好きにならないようにしたんです』
言い終わると、安田はレモンサワーを一気に飲み干した。
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