一 日常と非日常

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 ここまで来て、ある生徒が劉封の後ろで震えている男子生徒を見つけた。それに気づいた劉封がやれやれとため息をつく。 「彼は呉禁(ウー・ジン)といいまして、まあ見ての通り非常に人見知りでして・・・・・・呉禁、会釈だけでもいいから、皆さんに挨拶しなさい」  呉禁は、ちょうど怖いものを見た時に母親の後ろに隠れている子供のように、劉封の背中から左半分だけ顔を出すとちょっとだけ頭を下げた。  その潤んだ瞳で、かなりの童顔で、かつ弟属性MAX(多分)の彼のその行動は、クラスの女子生徒全員(達子、明美、瑞穂を除く)のハートのど真ん中を見事撃ち抜いた。たちまち荒波のごとく押し寄せて、質問の嵐を彼に浴びせた。  獣と化した女子生徒に呉禁はすっかり脅えてしまい、また劉封の後ろに隠れた。これでは劉封の制止も通じず、かつ担任の瑞穂は止める気が全くないらしく傍観としゃれこんでいた。 「オイコラ瑞穂。教師ってのは普通生徒が困ってる時は助けるんじゃないのか?」  見かねた龍二が瑞穂に問い糾すも「楽しいからいいの♪」と教師らしからぬ発言に訊いた俺がバカだったと後悔するのだった。  ちらりと視線を他の場所にやれば、あの『地獄の案内人』も対処に困り果てているようだった。  珍しいと思いながら、彼は野獣に囲まれた被食者に助け船をだすことにした。 「呉禁」  龍二の呼ぶ声に気づいた呉禁は辺りをキョロキョロと見回し、彼を発見するや、もの凄い勢いで包囲網を突破するや、満面の笑みで彼に飛びついた。 「よぉ、元気にしてたか?」  頭をクシャクシャされながら、彼は大きく頷いた。  それを見て、当然、女子生徒は龍二に牙を向く。 「ちょっと進藤君! 何で貴方にはいきなりゴーちゃん懐いてるのよ!」 (ゴーちゃんって、もうニックネームつけてんのかよ) 「そうよ! そうよ! 何でアンタだけ!」  女生徒は烈火の如く怒り、今にも彼を殺る気の表情で迫ってきた。  まさか、呉禁が別の世界の人間で、色々な成り行きがあって懐かれた、とかそんなこと言えるわけない。 「暫く前にホームステイに来てそんとき仲良くなった」 と誤魔化しておいたが、殺気だっている彼女達には全く通じなかった。
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