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扉を勢いよく開けるやいやな、根室は違反者に怒鳴り散らした。が、竹刀を振っていた男の姿を見て、彼は持っていた竹刀を手放して床に落としてしまった。
白と青の道着。黒の短い髪。他を圧倒するオーラを纏った凜とした姿。
彼のことを、根室は忘れたくとも忘れられるはずなかった
彼は、日本──いや、世界最強の大学生剣士だった人物だった。そして、三年前に死んだはずの男だった。
竹刀が落ちた音に気づいた男は、音の方を向くと懐かしそうに顔に笑みを浮かべた。
「よぉ根室、それにお前ら、三年振りだな。元気にしてたか?」
その男はニカッと笑ってそこにいた皆に言った。
「進・・・・・・藤・・・・・・・・・?」
「そんな・・・・・・バカな」
眼の前の現実を、根室達は信じることができなかった。
「何だよ。幽霊が出てきた的な眼ぇで俺を見やがって」
男──進藤龍一は近づきながら少し口をとがらせた。
「おま・・・・・・だっ・・・・・・えっ・・・・・・・・・??」
驚きのあまりパニクって舌が回らない山下は口をぱくぱくさせながら龍一を指差していた。
彼が死んだということは新聞やニュースで何度も報道されたし、根室や山下、安達はもちろん、ちょくちょく練習を見に来ていた窪田や樋山も彼のことは知っており、葬式にも出席した。
その彼が眼の前にいるのだ。到底信じられるはずがない。
「言っとくけど、幽霊じゃねぇからな」
龍一はそう言って根室の眉間を小突いた。そして同じことを山下らにもした。その感触は、温かく、紛れもない、生きた、血の通った人間の指だった。
「お、俺、教授に知らせてきますっ!!!」
慌てて駆けていく窪田の姿を龍一は笑って見ていた。
真夏の太陽の光を反射させるアスファルトの道を、男は手書きの地図を片手に歩いていた。
「俺がいない間に、日本も随分と様変わりしたんだなぁ」
そんなことを呟きながら男は地図に書かれた目的地を目指していた。
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