序 懐かしの世

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 ギョッとして縁側を向くと、そこには二十代中頃の若い男が不満な顔で立っていた。 「誰だ君は! 勝手に人の家に入りおって!」  山崎は不法侵入した若者に怒鳴りつけた。 「んだよぉ、お前上官の顔を忘れたのか?」  若者の言葉に、山崎は首を傾げる。この若僧は一体何を言っているのだ? という顔をしている。  山崎は男の顔に見覚えがなかった。 「私は君のような失礼な者は知らん!」 (・・・・・・にゃろう、俺の顔忘れやがって)  若者はポケットから例のものを取り出すとそれを山崎に投げつけた。 「山崎。それ、見覚えあんだろ?」  投げつけられたものを反射的に受け取った山崎はそれを見てあっと唸った。  それは奇麗に真っ二つに裂かれた錆びれた弾丸であった。あの日、ある男が自慢の太刀の一刀のもと斬り伏せたものだ。  そのまま若者の顔を見た。その顔が、その瞬間、ある人物と重なった。 「し・・・・・・進藤・・・・・・大将?」 「この野郎、やっと思い出しやがったか。  ったく、六十年くらい過ぎてたからって俺の面ぁ忘れてんじゃねぇよ」  若者───元大日本帝国陸海軍大将兼大元帥進藤龍彦は部下の山崎を見て笑った。 「あぁ───」  山崎の頬を涙が流れた。
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