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「おいっ。」
その声に、B級官能小説の様な妄想を巡らせていた僕は我に返った。と同時に、息子をズボンのチャックに挟み、小さな悲鳴をあげてしまった。
「お前、小便終わってんのに、何で便器からどかないんだよ。」
怪訝な顔をして僕に尋ねたのは、倉橋だ。全てにおいて平均を上回る、出来杉くんタイプの爽やか野郎。何が腹立たしいって、性格も良いことだ。
「か、考え事してた。」
「エロいことじゃないのか?」
笑いながら僕の息子を見るもんだから、無意識に元気になっていたんじゃないかと焦った。流石にそれはなかったが。
「とにかく、にやついてたぞ。何があったんだよ。」
倉橋は、東幹久ばりの白い歯を覗かせている。
ここでさっきの自慢をしたいところだが、モテる奴にしたってしようがない。それどころか、横取りされる可能性だってある。
僕はかぶりを振った。
「元々こういう顔。」
今度はスムーズにチャックをしめて、トイレから出ようとした。僕がドアノブに手をかけると、後ろからまだ倉橋の声がする。
「なぁ、さっきチエと話してたろ?」
図星だ。倉橋め、分かってて聞いていたのか。
もしかしたら、奴もチエちゃんを誘ったのかもしれない。いや、これから誘うのか?
しかし脅える事はない。僕は直々に彼女からOKを貰っているのだ。
振り返るとそこには、少し眉間にシワを寄せた倉橋がいた。悔しさが顔からにじみ出ている気がする。
「なぁ、三浦ー」
倉橋がそう言いかけた頃には、僕は廊下へと姿を消していた。
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